不登校に関する見解

はじめに

令和3年10月に、不登校児童生徒の調査に関する結果報告が、文部科学省から出されました。近年、増加を続ける不登校児童生徒の数ですが、ここへ来てさらに急激な増加になっています。
 
私は不登校の問題というのは、不登校の児童生徒のことだけを考えていては解決につながらないという風に思っています。この問題は、教育の全体そして教育の根幹にかかわる問題であるという危機意識を持って、きちんとした対応、本質的な対応をしていかないとこの問題はさらに、厳しさを増していくだろうという風に考えています。
 
 

不登校の定義 

病気や経済的な理由を除き、1年間に30日以上登校しないあるいはしたくともできない状況(文部科学省の定義より抜粋)

 
まず不登校の定義ですけれども、1年間に 30日以上登校しない、あるいはしたくてもできない、ということが不登校の定義とされています。次に、不登校児童生徒数の推移ということで小学生でおよそ8万人、中学生がおよそ 16万人、合計して 24万5千人の子供達が不登校の状態にあるということで、この 24万という数は、 10年前のおよそ 12万の数の2倍になっています。(令和3年度 文部科学省調査) 
 

 
同じ調査の中で、不登校の要因について調べられています。一番多いのが無気力、不安で約5割がこれに該当しています。以下、上位の数ですけれども、生活リズムの乱れ・友人関係親子の関わり・学業の不振となっていますが、これらは全て子供の側に不登校の要因を求めている、というところで共通していると思います。
 

不登校の要因
 ・無気力、不安    49.7%
 ・生活リズムの乱れ等 11.7%
 ・友人関係       9.7%
 ・親子の関わり方    8.0%
 ・学業の不振      5.2%

 
しかし本来は、不登校を生んでしまっている学校の今の体制や仕組みこそが問われるべきだとに思います。無気力ということで見るならば、本当にこの子供達は無気力なんだろうか、無気力に見えるだけではないだろうか、あるいはむしろ無気力を生んでしまう学校の仕組みというがあるのではないか、そういったことを考えるべきだと私は考えています。
 
 

不登校の要因

一方こちらの調査は、ホームスクールホームエデュケーション家族会というところが行った調査で、ご家庭で子どもたちの学習を見ている、そういったご家族によるアンケートで、数が410名ということで少なくはなっていますが、より子供達の視点に立った不登校を始めたきっかけ、家庭での学習を始めたきっかけの要因が述べられています。(ホームスクール&ホームエデュケーション家族会アンケート調査(2022年)【301世帯410名・複数選択】)
 

ホームスクール/ホームエデュケーションを始めたきっかけ
 ・学校の環境が合わない  74.1%
 ・発達障害        35.9%
 ・学校教育への不信感   30.6%
 ・学校の先生との人間関係 29.6%
 ・子供同士の人間関係   24.6%

 
一番多いのが学校の環境が合わないということで74.1%、ほとんどがこれにあたるわけですけれども、こちらは複数回答ですので数字が高くなっていますが、例えば発達障害で、そのことに理解がない先生との人間関係はこじれます。あるいは発達障害にあったようなカリキュラムなり授業なりが行われない、ということであれば学校教育への不信感ということが出てきます。総合すると学校の学習環境が子供に合っていないということで、上の四つは全て関連した内容になっていると思います。
 
こうして見てみると不登校を生んでいる要因というのは、実は学校の環境が子供達に合っていない、というところが根本的な原因だということが分かると思います。そしてこのことは、果たして不登校の子供達の事だけなんだろうか、不登校でない登校してる子供達にとっても今の学習環境が最適なんだろうかということは問われるべきだと思います。
 
現在の学校の教育課程、1年生から6年生まであって、小学校であれば40分で×5コマ・6コマで一日が過ぎていく、そこに国語・算数・理科・社会という教科があって、その内容も学習指導要領で細かく決まっている、こういった教育の在り方が子供達の不適応を生んでるのではないでしょうか。
 
さらに学校の環境の中に、音・光・匂いというような要素があるということがこの報告書で書かれています。こうした要素は、私たちがこれまであまり気に留めてこなかったところではありますが、子供たちのもつ感覚に対する過剰な刺激をうむことがあるのだ、ということに注意を向ける必要があるのでしょう。
 
 

 不登校特例校

こうした不登校の状況に対して、文部科学省は不登校児童生徒のための学校である不登校特例校という仕組みを導入しています。この不登校特例校というのは、不登校児童生徒を対象とする学校であること、もう一つは特別の教育課程を編成できる学校です。
 
特色としては、一つは年間授業時数が少ないということです。通常、小学校の高学年それから中学校ですと年間1015コマの授業をする必要がありますが、これが750コマ程度でいいですよということになります。およそ3/4でいいですよということになります。
 
また、時間数だけではなくして、授業を一人一人に応じた学習のレベルや学習量それから学習のスピードで授業を実施するのが特色だということになります。
 
そして、通常、クラスというのは学年をベースに同じ学年の子どもたちがクラスを編成しますが、ここでは学年の枠を超えたクラス編成をしていいですよ、異なる学年の子供たちが同じクラスでいいですよということがいわれています。
 
さらに、これ例えばですけれども総合的な学習の時間が通常50時間、これ中学校1年生の例ですけども、通常50時間必要ですというところが85時間やっているということで、非常に多い時間数をとっています。23年生についても同様に多い時間数となっています。これはどういう意味かと言いますと座学で教科書でお勉強ということではなくして、主に地域に出て行って体験的な学習をする、とこういった時間を増やしているという特色があるということです。
 
それではこういった不登校特例校がどのくらい全国にあるんだろうかということになりますが、スタートした平成16年に3校それが現在21校ということで7倍にはなっていますが、数でみますと18校増えているだけということで、あまり増えていない、ほとんど増えていないという状況と言っていいかもしれません。
 
これに対して国はどういった見解かと言いますと、ここにあります報告書はこれ文部科学省が所管する会議体の報告書ですけども、今後も不登校特例校の設置を推進していく必要があると書かれています。
 
さらに令和5年6月16日に閣議決定された「教育振興基本計画」では、「全国で300校の設置を目指す」とされています。
 

さいごに

このように不登校の子供たちに対して適切な教育のできる環境をつくっていくことは結構なことだと思います。しかしこの特例校は、要は通常の学校から不登校の子供たちを特例校に移すだけのことであるとも言えます。
 
本来は、通常の学校の環境をインクルーシブにしていく、すなわち一人でも多くの子供が普通に通い、普通に勉強し、普通に過ごすための学校にしていく努力が求められているはずです。
 
こうした努力は、不登校ではない子供たちにとってもより過ごしやすい環境になるはずです。私が訴えたいことは、不登校という現象を不登校の子供への対応に矮小化せずに、教育全体の課題としてとらえかえす視座が必要である、ということです。
 
そうした意味で、不登校特例校における実践とその成果を通常の小中学校へ活かしていく、そのことによって小中学校の子供たちから不登校を生まないようにするというように、不登校特例校を戦略的に活用するという視点を持つべきであると私は考えています。
 
不登校の子供たちが感じている学校に対する違和感には、未来の学校への道筋が示されていると考えるべきでしょう。
 


文部科学省「不登校特例校の設置に向けて」【手引き】 令和2年1月