子どもに関する条例の一つに「子どもの権利条例」と呼ばれるものがあります。この条例は、1989年(平成元年)に国連において採択され、日本においては1994年(平成6年)に批准された「子どもの権利条約」を受けて、国内の多くの自治体で制定されたものです。

 ここでは、まず国連において「子どもの権利条約」が採択されるまでに至る経過と、条約の内容について概観します。


世界人権宣言

1948年12月10日、第3回国連総会で採択

前文(抄)

人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、

人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらしたので、

人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権を保護することが肝要であるので、

すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の規準として、この世界人権宣言を公布する。


 このように前文には、人権の保護が世界の平和の基礎となる、という理念が掲げられています。人権宣言は、第二次世界大戦の反省の上に立ち、戦争を起こした国々が、自国の人民の人権を抑圧していたことから、人権の保護こそが世界の平和の基礎となる、という考えを述べています。

 すなわちここでいう人権は、人類の調和ということと一体となって構想されていますから、人権思想は、ただ単に個人の権利を主張することだけが目的なのではなく、世界平和のためには個人を大切にする社会でなければならず、個人を大切にする社会が世界平和を実現する、という社会思想であると捉えるべきと考えます。

 そこで、児童の権利を構想するときには、大人との関係、社会との相関関係、社会全体の秩序と平和という視点を持つ必要があると思います。

第16条

家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。

第25条

母と子は、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。

 この二つの考えは、この後、繰り返し登場します。

児童権利宣言

1959年11月20日、第14回国連総会で採択

前文

児童は、身体的及び精神的に未熟であるため、その出生の前後において、適当な法律上の保護を含めて、特別にこれを守り、かつ、世話することが必要である

第4条

児童は、健康に発育し、かつ、成長する権利を有する。この目的のため、児童とその母は、出産前後の適当な世話を含む特別の世話及び保護を与えられなければならない。

第6条

児童は、その人格の完全な、かつ、調和した発展のため、愛情と理解を必要とする。児童は、できるかぎり、その両親の愛護と責任の下で、また、いかなる場合においても、愛情と道徳的及び物質的保障とのある環境の下で育てられなければならない。

第9条

児童は、あらゆる放任、虐待及び搾取から保護されなければならない。児童は、いかなる形態においても売買の対象にされてはならない。


 ここで明確に述べられているように、児童を保護・援助しなければならない理由は、児童がまだ未熟であるからです。児童の権利とは、未熟であるがゆえに世話と保護を受ける権利がある、ということです。児童を一個の個人として尊重する、ということは、児童を保護・援助するという行為として表現される、ということです。


国際人権規約(A規約・B規約)

1966年12月16日、第21回国連総会で採択

経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)第10条

できる限り広範な保護及び援助が、社会の自然かつ基礎的な単位である家族に対し、特に、家族の形成のために並びに扶養児童の養育及び教育について責任を有する間に、与えられるべきである。

市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)第23条

家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。

同24条

すべての児童は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、国民的若しくは社会的出身、財産又は出生によるいかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって家族、社会及び国による措置について権利を有する。


 児童の権利とは、社会・国による保護の措置を受ける権利である、ということがくり返し出てきます。また、家族は児童に対しては保護を措置し、社会と国による保護を受ける権利を持つ、というように二重性を有する独自の存在であることがわかります。


児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)

1989年11月20日、第44回国連総会で採択


 児童の権利に関する条約(以下、子どもの権利条約)は、世界人権宣言、児童の権利に関する宣言、国際人権規約の一連の流れの中で生まれました。すなわち、条約となれば、これを批准した国々は、これを守る義務が発生します。こうして、子どもの権利条約は、宣言を実際に効力のあるものにするために、国際条約として成立します。

条例の構成

 日本ユニセフ協会のホームページによれば、「この条例は大きく分けて」次の4つの権利に分類されます。

 ①生きる権利
   防げる病気などで命をうばわれないこと。病気やけがをしたら治療を受けられることなど。

 ②育つ権利
   教育を受け、休んだり遊んだりできること。考えや信じることの自由が守られ、自分らしく育つことができることなど。

 ③守られる権利
   あらゆる種類の虐待や搾取などから守られること。障がいのある子どもや少数民族の子どもなどはとくに守られることなど。

 ④参加する権利
   自由に意見をあらわしたり、集まってグループをつくったり、自由な活動をおこなったりできることなど。


 この説明を読むと、病気で命を奪われることや病気やけがをしても治療が受けられないこと、教育を受けられなかったり休んだり遊んだりできない、虐待や搾取が常態化している、自由に集まって意見をあらわすことができない、といった事柄が日常化している現状が背景にあることが伺えます。

 実際、日本ユニセフ協会によれば、子どもの権利条約の意義について、次のように説明されてます。

戦争に巻き込まれてしまったり、防げる病気で命をうしなってしまったり、つらい仕事で1日が終わってしまったり…世界には厳しいくらしをしている子どもたちがいます。「子どもの権利」は、そんな子どもたちをはじめ、世界中の子どもたいの強い味方です。


 私たちが日本において子どもの権利に関する条例を考えるときには、この「子どもの権利条約」の性格をしっかりと押さえておく必要があります。例えばWHOの「新生児・乳児死亡率国別順位(2013年)によれば、新生児で1000人中1人、乳児で1000人中2人で、194国の加盟国の中で最も少ない人数となっています。*新生児:生後約1ヶ月未満の赤ん坊 乳児:生後1年未満の赤ん坊)

 最も死亡率の高い国では、1000人中、新生児で50人、乳児で119人が死亡してます。もちろん子どもの命の重さは、1人でも50人でもその大切さに差はありませんが、こうした国における「課題」と日本における「課題」は自ずと異なってきます。すなわち、戦争や貧困が日常的な国々と、日本における「課題」はその内容が異なりますから、条例は、それぞれの自治体の状況を反映したものにする必要があるでしょう。
 

参考文献
・札幌市HP「子どもの権利の資料(条約・条例制定までの取組・他都市の状況)」
・公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本HP
・日本ユニセフ協会HP