道徳を身につける

はじめに

 ここでは文部科学省の作成した学習指導要領をもとに道徳教育について考えみたいと思います。それは、道徳教育の内容や方法については多くの議論がありますが、そもそも道徳とは何か、ということについてはあまり議論されていないと感じるからです。考察にあたっては、哲学者のヘーゲルに登場してもらいます。なぜヘーゲルかというと、学習指導要領の道徳の項だてはヘーゲルの道徳論の項だてを下敷きにしているとみることができるからです。まず、学習指導要領の道徳の内容の項だてをみてみます。

学習指導要領 第3章 特別の教科 道徳 第2 内容
 学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の要である道徳科においては、以下に示す項目について扱う。
 A 主として自分自身に関すること
 B 主として人との関わりに関すること
 C 主として集団や社会との関わりに関すること
 D 主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること


 次にヘーゲルの道徳論をみると次のように書かれています。(引用は岩波書店「哲学入門」武市健人訳による)

 人間はまず、(1)個人であるということが本質的な規定である。次に、(2)人間は自然的な全体、すなわち家族に属している。(3)人間は国家の成員である。(4)人間は他の人間全体との関係に立つ。———だから義務は四種類に分かれる。(1)自分に対する義務、(2)家族に対する義務、(3)国家に対する義務、(4)他の人間全般に対する義務。


 ここでは道徳ではなく義務と書かれていますが、ヘーゲルは義務を果たすことを道徳と呼んでいるので、ここに書かれている義務に関する記述は、道徳に関する内容を表していると考えてよいと思います。実際この章のタイトルは「義務論もしくは道徳論」となっています。

 これをみると、学習指導要領は、ヘーゲルの道徳論をもとに作られていることがうかがわれます。「A 主として自分自身に関すること」は「(1)自分に対する義務」に、「B 主として他の人との関わりに関するもの」は「(4)他の人間全般に対する義務」に、「C 主として集団や社会との関わりに関すること」は「(2)家族に対する義務」及び「(3)国家に対する義務」にあたると考えられます。「D 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること」に該当する部分がありませんが、これはヘーゲルの道徳論が、人と人との関係の考察によって組み立てられていることによると思われます。つまり人と自然との関係は考察の対象とされていない、ということです。