障害児教育


1 学習の場


 障害のある子どもの学習の場には、通常の学級(いわゆる普通級)の他に、通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校があります。

 通級指導教室は、普段は普通級で勉強していて、構音障害や難聴などで発音指導が必要な子どもに対して、週1時間から8時間程度まで、別の教室で発音指導などを行うものです。現在では自閉症や学習障害の子どもに対する個別指導にも対応するようになっており、通級指導を受けている子どもの数は年々増加しています。

 特別支援学級は小・中学校に設置されている学級で、障害の種類に応じて知的障害、肢体不自由、自閉症・情緒障害などの学級があります。通級指導教室と違うところは、通級指導教室の子どもは普通級での学習が基本となりますが、特別支援学級の子どもは、特別支援学級での学習が基本である、という点です。

 通級指導教室も特別支援学級も、子どもたちが住む地域の小・中学校にあり、子どもたちは自分の学区にある小・中学校に通いますが、特別支援学校は、一部国立・私立・市立の特別支援学校を除き、基本的に県立の学校に通うことになります。

 障害の程度でみると、通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校の順に障害の程度が重くなる、ということが一般論としてはいえます。ここで「一般論として」といったのは、障害の重い子どもは特別支援学校に行かなければならないというわけではないからです。市町村にある教育支援委員会というところで就学先を検討します。

2 今後目指す方向性


 さて、これからの学校のあり方を考えるときに、障害児の教育をどこで行うか、という課題はとても大きな課題です。確かに特別支援学校には障害の重い子どもたちが集まり教師も日々障害児と接するわけですから、教師の専門性は高まるでしょう。また、医療ケアの必要な子どももたくさんいますから、常勤の看護師や嘱託の医師もいる特別支援学校は、こうした子どもたちが安心して通える学校であることに間違いはありません。

 しかし特別支援学校は、普通は家のそばにはありませんから、長い時間スクールバスにゆられて通わなければなりません。あるいは、酸素療法などの医療ケアがある場合には、保護者の送迎が必要な場合も多々あります。もし自分の学区の小学校に通うことができたら、保護者は車椅子を押して歩いて通学できます。また、子どもが学校で急に具合が悪くなった場合にも、家や職場から駆けつけやすくなるでしょう。

 障害のある人とない人が共に暮らす社会をつくっていくためには、小さい頃一緒に過ごすことがなにより大切です。障害のない子どもからすれば、障害のことを理解し、当たり前に受け入れる素地をつくることができます。障害のある子どもからすれば、同年齢の子どもと一緒に過ごすことで刺激を受けたり、自分で努力すべきことと、人に支えてもらっていいことの分別を身に付けることができたります。

 知らない、ということはとても大きな心のバリアになります。それは悪意を持って差別的な感情を抱く、というようなことだけではありません。優しい気持ちから遠慮して関わることを避けてしまう、ということもまま起こりがちです。

 そこで、重い障害のある子どもが一人でも多く、地域の小・中学校へ通うことができる社会をつくっていくことが必要です。しかし、これはすぐにできることではありません。今でも多くの障害のある子どもが小・中学校へ通っています。それは、小・中学校には特別支援学級や通級指導教室という仕組みがあるからです。今後、障害児がより多く小・中学校に通うことができるようにするためには、新たなしくみを整えていくことが必要でしょう。

3 学習の場の現状


 それでは次に、障害のある子どもたちの学習の場の現状はどうなっているでしょうか。ここでは、県全体、横浜市・川崎市の政令市と横須賀市と人口の近い藤沢市における児童数と、そのうちの特別支援学級と通級指導教室に通う児童数をとりあげてみます。(表1)

表1 公立小学校における特別支援学級と通級指導教室の在籍児童数と割合

 
  児童数 特別支援学級 通級による指導
神奈川県 454,730 9,567 5,222 147,879
2.10% 1.15% 3.25%
横浜市 182,870 4,335 1,640 5,975
2.37% 0,90% 3.27%
川崎市 71,781 1,390 1,007 2,397
1.94% 1.40% 3.34%
藤沢市 23,118 235 355 590
1.02% 1.54% 2.55%
横須賀市 19,588 464 121 585
2.37% 0.62% 2,99%


*「児童数」は、公立小学校の児童数
*出典;平成27年度神奈川の特別支援教育資料(神奈川県教育委員会)



 特別支援学級と通級指導教室に通う児童の割合は、県全体でおよそ3.25%となっています。政令市である横浜市も川崎市もほぼ県平均と同程度の率となっているので、3%前後が平均的な障害児教育の対象児童の割合ということが言えます。

 ところが藤沢市は特別支援学級に通う児童数の割合がおよそ1%と、他市に比べ少なくなっています。この理由として考えられるのは、特別支援学級の設置率です。他の市における特別支援学級の設置率は100%と、全ての小学校に特別支援学級があるのに対し、藤沢市の設置率はおよそ50%となっています。もし藤沢市でも全校に特別支援学級を設置した場合、単純に倍になると想定すると、そこに通う児童数は2%となるので、他の市とほぼ同数になります。

 また、横須賀市においては、特別支援学級と通級指導教室に通う児童の率は2.99%と県平均を下回っています。これは通級指導教室に通う児童が少ないことによります。藤沢市には通級指導教室のある小学校が5校あるのに対し、横須賀市にはこれが2校しかありません。ここも、横須賀市で通級指導教室の設置小学校を増やせば、3%を超える率となるでしょう。

 ここから読み取れることは、特別支援学級や通級指導教室の対象児童は、特別支援学級や通級指導教室の設置状況の関数ではないか、ということです。この仮説はもちろんこの表から読み取れる可能性の一つにすぎませんが、特別支援学級や通級指導教室の対象児童が継続的に大きく増加している状況(表2)を背景に考えると、対象児童が増えるから設置を増やす→設置を増やすと対象児童が増える、という循環があるように思われます。

表2 全児童数と特別支援学級在籍児童数の推移

年度 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18
特学児童数 2,761 2,904 3,130 3,464 3,860 4,084 4,404 4,826 5,291
全児童数 452,936 448,955 445,809 447,963 451,946 457,401 461,323 467,340 471,352
年度 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27
特学児童数 5,788 6,312 6,872 7,226 7,620 8,025 8,438 9,007 9,567
全児童数 472,013 475,205 475,693 474,156 469,542 463,403 459,278 456,741 454,730



*「全児童数」は公立小学校の児童数。
*出典:神奈川県学校統計

全児童数は平成22年度以降減少しているにもかかわらず、特別支援学級在籍児童数は継続的に増加の一途をたどっています。


4 今後の展開


 今後の障害児教育の方向性は、できるだけ特別支援学校より地域の小・中学校へ、地域の小・中学校においては、できるだけ特別支援学級より普通級へ、という流れとなります。その時に鍵を握るのは、障害のある子どもたちが普通級で学ぶことを支援するためのしくみです。

 県教育委員会では「みんなの教室」というしくみが現在試行的に行われています。「みんなの教室」とは、普通級での学習や活動を支援するために別の場での支援を用意しておく「しくみ」を指しています。そして名前のとおり、ここを利用できる子どもはなにも障害のあるこどもばかりとは限りません。

 例えば45分間、教室にずっといることが困難な子どもが、少しの時間すごす場所がある、パニックになってしまった子どもが教室を離れて落ち着ける場所がある、ということ。そしてそのことにより、普通級での学習や活動に、落ち着いて参加できるようにするということ。そのためにつくるしくみ全体が「みんなの教室」ということです。

 つまり、「普通級における学習や活動を保障するために必要な時にいつでも誰でも別の場を利用できるシステム=みんなの教室」ということになります。

 「教室」という概念をこのように広げて考えると、学校が少し柔軟なシステムと感じられてくるのではないでしょうか。不登校の子どもが保健室で時間を過ごしているとき、普通級だけが学習の場で、クラスの友達たちと一緒に勉強することだけが学習の時間であると考えると、この子どもは普通級に入れない子どもとなってしまいます。しかし、保健室という別の場も「みんなの教室」のひとつと位置付ければ、子どもたちは自分に応じた場所で学習や活動をしている、と考えることができます。

 クールダウンのために別の場所で時間を過ごしているとき、この子どもは教室にいることができないのではなく、別の場を活用してクールダウンをして落ち着いたらまた普通級に戻る、というように、「みんなの教室」を活用することで学校生活を充実して過ごすことが出来るのです。

5 具体的なシステムづくりを


 このようなシステムは、各自治体ごとに工夫することができます。横須賀市には、全ての小中学校に特別支援学級があり、伝統ある通級指導教室もあり、そして小中学校を支援するセンター機能を持つ市立ろう学校もあるのですから、こうした資源を活用して、さらに子どもたちへの支援体制を推し進めていくとが可能です。

 さらにいえば、ここまではシステムの問題ですが、システムがうまく動くかどうかは、学校にいる教師や子ども、そして保護者たちがこのシステムを理解し協力するかどうかにかかっています。「みんなの教室」を学校全体のシステムとして支えていこうとする教師の意識と、クラスをみんなのクラスとしたいと願う子どもと保護者の気持ち、それが「みんなの教室」という試みがうまくいくかどうかの決め手となるでしょう。横須賀版みんなの教室の成功を期待します。